「シャッターアイランド」DVDで見ました。(ネタバレ)

巨匠マーチンスコセッシ監督の、日本公開では「ディパーテッド」以来のフィクション映画ということで、かねてからボクの「見るリスト」入りしていた作品。しかも「謎解き」。これはマストでしょう、と思いつつ、DVDで観賞開始。

はじまって1分。船上の描写がおかしい。ひと昔まえの特撮映画のように、船と海の合成がなんかメタメタ。「はて、これは一体・・・」と思いつつ監督名を確認する。たしかに「マーティン・スコセッシ」とある。なにかの間違いだろうと思い直し、主人公のディカプリオが島に上陸し、夢を見るまで普通に見る。
すると、夢の描写がなんかヘン。よく言うと「豊穣なイメージ」なんだろうが、飛び散るA4の紙切れがやたらと目立つ。死んだ奥さん(ミッシェル・ウィリアムズ)の台詞も、夢の舞台であるマンションも、その向こうに見える湖畔の風景も、やたらと目立って、とってつけたようだ。
これは真面目やってこうなってしまったのか、それともあえてこうしているのか、まったくわからない。
しかも夢の描写のカラフルさと、基本的にグレーな島の画の対比が、あきらかに失敗してちぐはぐな印象になってしまっている気がする。

不思議に思いつつ先をつづける。
映画に対する不信感が決定的になったのは、2度目の夢の描写と、夢 in 夢の2段夢オチをなんのひねりもなくここまで素直に描いてしまっているのを見てからだ。
そこからは不信感があら探しになってしまう。
立ち入りを禁じられているC棟に入っていくシーン。なんの緊張感もなく、妖しい雰囲気も、それを演出するための雨漏りや鉄柵それ自体がぶちこわしている。
強度の精神病者が収容されている檻へ主人公を引き込もうとする患者たちも、なんだかデュランデュランのPVにでてくるダンサーみたいだ。
ナチスの強制収容所の描写も軽すぎる。
なかでも相棒を救おうと断崖をおりるシーン、長いわりにドキドキするわけでもなく、かといって落っこちた相棒だと思ったのが人間の形みたいな岩だったから、収拾もつかない。同じだらだらさでまた登って行く。またそれを追うカメラ。しかもディカプリオが「はあはあ」と息切れしているのがなんかつらい。

ラストの「衝撃」は、見た人のたぶん半分ぐらいは途中で、やばいのはディカプリオじゃないの? と気づいていたと思う。しかしそれは問題ではない。はじまって30分で気づいたとしても、それで見るのをやめてしまうわけではなく、「すぐわかったよ」とかえって喜んでもらえるのだから。
問題なのは「ディカプリオこそが病気でした」とそう落とされても、ディカプリオの「狂気」が一向に身近に感じられず、彼に感情移入できないままなので「あら、たいへんね」ぐらいしか思わないことだ。
オチを聞くとなるほど、と前シーンを思い出して納得する楽しさはある。そのための伏線、しかけ、台詞は山のようにある。だから見返すと「なるほど、なるほど」の連続である。
しかし、逆を言うと全部が伏線なので、肝心の彼の「狂気」や物語に光があたらないまま結末にむかってしまう。膨大な伏線が時間を追う毎に積み重なっていき、そのすぐ後にオチがくる。トリックや仕掛け、オチ、どんでん返しなど、映画の装飾が装飾しようとするもの、その中心になるはずの「物語」が装飾のための伏線に浸食されてしまっている。
そうしてその「物語」とは、スコセッシ監督お得意の「狂気の物語」であったはずだ。

これがあの「タクシードライバー」や「キングオブコメディー」と同じ監督だろうか。
狂気のトラヴィスはいまでもボクのヒーローだ。
「シャッターアイランド」は2時間を超えているが、その半分でもよかった。もしあの船上のシーンが「わざと」なのだとしたら、へんな引っかかりを持たせて観客に距離をとられるよりは、潔くカットすべきだった。主人公の水嫌いが子供が殺された湖に由来している、という伏線よりも、観客を引き込む方に注力すべきだった。
途中でわかる人が多かったとしても、原作では結末部分を袋とじまでしているあのラストを大切にするために、トラヴィスなみの狂気に重点をおくべきだったと思う。

だから見終わって、この映画のPRが不思議なほどにやたらと「謎解き」に重点をおいている理由が分かった気がした。
この映画そのものの魅力が「謎解き」にしかないからだろう。
しかしこの前日、ボクは観客をあっと言わせ、2時間たのしませるためには、大げさな「島」という装置も、過剰な伏線も、まして観客のためにならないむりやりな演出も必要ないということを、シドニー・ルメットの「デストラップ」を見て知ったのだ。

が、それはまた次回。

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