フエンテス『アルテミオ・クルスの死』書評(年表、登場人物表)

『アルテミオ・クルスの死』書評、年表、登場人物表


フエンテス『テラ・ノストラ』を途中で読むのをやめてしまった人(ボクもですけど!)の多くは、この『アルテミオ・クルスの死』を先に読んでいれば挫折せずにすんだのではないかと思う。
『老いぼれグリンゴ』ほど平明でなく、『テラ・ノストラ』ほど複雑難解でもない。

あらすじを言ってしまえば、私生児として生まれた少年が、混乱のメキシコ革命に参加し、詐欺まがいの手法で地主となり、政敵を消し去り、愛人を作り、巨万の富を得て経済的にのし上がるという、ラテンアメリカ特有の血なまぐさい男の一生の物語である。

その71年の一生の中の12日を、一人称(現在時制)、二人称(未来形)、三人称(過去形)という3種類の記述方法で、12日×3種類というセクション分けで語っている。

12のセクションにおいての、詳細な日付とその時点でのクルスの年齢は以下の表の通り。
掲出順位
年代順番号
出来事
クルスの年齢
1
1941年7月6日
10
買い物する二人の女。職場でのクルス。
52
2
1919年5月20日
5
クルス、ベルナール家を訪問、カタリーナと出会う。
30
3
1913年12月4日
3
革命時に出会ったレヒーナとの恋と死。
24
4
1924年6月3日
6
ガマリエルの死。カタリーナの孤独。
35
5
1927年11月23日
7
国会議員のクルス。政治的駆け引き。大統領との会見。
38
6
1947年9月11日
11
アカプルコでリリアとヨットに乗る。嫉妬。
58
7
1915年10月22日
4
ビリャ派との戦闘。捕虜となりベルナルと出会う。
26
8
1934年8月12日
8
ラウラとの生活。ラウラの倦怠。
45
9
1939年2月3日
9
スペイン内戦に参加するロレンソ。
49
10
1955年12月31日
12
毎年恒例の新年のパーティー。ハイメと会話。
66
11
1903年1月18日
2
メンチャーカ家の小作人ルネーロと少年のクルス。
13
12
1889年4月9日
1
クルスを出産するイサベル。ルネーロが立ち会う。
0


主要登場人物一覧は以下の通り。
  • カタリーナ:妻
  • テレーサ:娘
  • パディーリャ:秘書
  • ゴンサーロ・ベルナル:クルスの戦友
  • ガマリエル・ベルナル:ゴンサーロの父、大地主
  • カタリーナ:ゴンサーロの娘
  • ルイサ:ゴンサーロの妻
  • ラモン:カタリーナの元恋人
  • パンス:新聞社主筆
  • レヒーナ:戦場で知り合ったクルスの恋人
  • ベントゥーラ:クルスの部下
  • ドン・ピサーロ:政敵、地主
  • リリア:クルスの若い愛人
  • ハビエル・アダメ:ヨットの若者
  • グローリア:孫
  • トビーアス:ヤキ族のクルスの部下
  • サガル大佐:ビリャ派の軍人
  • ラウラ:クルスの愛人
  • ロレンソ:クルスの息子
  • ミゲル:ロレンソの戦友
  • ドローレス:戦場で知り合った若い娘
  • ヌーリ:戦場で知り合った若い娘
  • マリーア:戦場で知り合った若い娘
  • ヘラルド:娘婿
  • セラフィン:召使い
  • ロベルト・レグルス:パーティーの客
  • ベティーナ・セバーリョス:パーティーの客
  • ハイメネ・セバーリョス:パーティーの客
  • ルネーロ:メンチャーカ家の小作人。インディオと黒人の混血
  • ペドリート(ペドロ):メンチャーカ家の次男
  • アタナシオ:メンチャーカ家の長男
  • バラコア:メンチャーカ家の女中
  • ルディビニア:ペドリートとアタナシオの母。老婆
  • イレネオ・メンチャーカ:ペドリートとアタナシオの父
  • イサベル・クルス(クルス・イサベル):ルネーロの妹


語りを重層化するために、3つの人称形式と時制を取り入れている点が読みはじめではとっつきにくいかもしれないが、そういう構造であることと、各セクションの年表とクルスのだいたいの年齢がわかれば、『テラ・ノストラ』のような「迷子感」は感じないだろう。

最近はずっとミステリーばかり読んでいたので、ひさしぶりに読み応えのある小説を読んだ満足感があった。

読書の参考になれば幸いです。






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